詐欺師にがっつり騙された話③
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パニック
トイレから戻ってきたらタニサキさんの車はどこにもなかった。
これから一緒に仕事仲間のカメラマンさんのところに挨拶にいくのだ。
黙っていなくなるはずがない。
そうだ。この辺りは車通りが多く、私を下した場所は駐車禁止区域だったので警備員に注意されたに違いない。だから今、どこかで車をUターンさせているに違いない。
そう思った私は、しばらく同じ場所でタニサキさんを待つことにした。
10分くらい待っただろうか?
タニサキさんの車は一向に戻って来ない。
何かトラブルでもあったのだろうか。
そう感じた私はタニサキさんに電話をしてみることにした。
しかし、何度かけても繋がらない。
いても立ってもいられなくなった私は、百貨店周辺を探してみることにした。
一瞬最悪の結末が頭を過ったが、それだけは考えたくなかった。
真冬の商店街を走って走って走りまくった。
もしかしたら近くの駐車場で待機しているかもしれない。
交通事故に巻き込まれて、身動きが取れない状況になっているのかもしれない。
何か予期せぬトラブルに巻き込まれているはずだ。
私はこれからタニサキさんと一緒にカメラマンさんのところに挨拶にいかなければならない。
こんなところで時間を消費している場合ではなかった。
結局周囲を1時間近く探したがタニサキさんの車を見つけることはできなかった。
そして今までの出来事を改めて振り返ってみた。
有名なスタイリスなのにも関わらず、軽自動車に乗っている髭面のおっさん。
私の話には全然興味を持たず、ひたすら自分の話ばかりするおっさん。
人の悪口と噂話が大好きでそれを恥ずかしげもなく堂々と語るおっさん。
いかにも自分が金持ちだということをアピールするかの如く、札束をちらつかせてきたおっさん
私は騙されたと悟った。
あいつはスタイリストなんかじゃない。
ただの詐欺師だ。
警察
私は急いで警察に駆け込んだ。
私:詐欺師に騙されました。
この第一声に警官も「はぁ?」という感じだった。
まぁ、そうだろう。
こんな寒空の中、汗だくになりながら交番に駆け込んでくるやつにまともな奴がいるはずがない。
ましては第一声が「詐欺師に騙されました」では余計に変人扱いだろう。
私が警官でも恐らく同じリアクションをしていたと思う。
「はいはい。」という感じであしらわれていると奥から若手の警官が出てきた。
どうやらこの警官が事情聴取をしてくれるらしい。
話始めた私は意外と落ち着いていた、今日の出来事を若い警官に向かって淡々と話した。
トイレに行き、タニサキさんが姿を消した件を話し終えたところで、その若い警官は「あーそれは完全にやられたね」と一言だけ言った。
いかにも「お前バカじゃん」という言い方に腹が立ったが、私がバカだったという事実は変わらない。ただ、夢をぶち壊された直後なだけに腹が立った。
私の話を信用してもらえたのだろうか、隣で話を聞いていた上司らしき人も交えてもっと細かい事情聴取に変わった。
具体的に何時何分ごろにどこで何をしていたのかというのを細かく聞かれた。
そして答えるたびに、何やらメモを取っていた。
結局、事情聴取は2時間近くかかり、辺りは真っ暗になっていた。
時計を見ると午後8時を少し過ぎていた。
8時間前の私は、こんな結末になるとは予想もしていなかった。
携帯電話以外のすべての荷物をタニサキの車に置いてきたため、お金は一銭もなかった。
事情を説明し、交番で電車代の500円借りてなんとか最寄駅まで帰ることができた。
しかし、最寄り駅についてからも大変だった。
なんせ家に入るためのカギがない。
友達に片っ端から電話をかけ、なんとか泊めてもらえることになった。
クレジットカード利用明細
私はクレジットカードをタニサキに渡したままだった。
交番から電話してすぐにクレジットカードは止めたものの、制限いっぱいまで利用されていた。
翌月には30万円の請求書がきた。
見ず知らずの他人にクレジットカード渡し、パスワードを教えた私にも非があるのは十分分かっているが、どうしてもこの30万円は支払う気になれなかった。
なのでどれだけ請求書が来ても一向に支払はなかった。
するとやがて、お金を回収する専門の機関から電話がかかってくるようになった。
その担当者とは何度も電話で話した。
向こうはとりあえず、分割払いでもいいから返せと。
私は1円たりとも支払う気はなかったので、私は被害者だ。私に請求されても困る。の一点張りで支払いには応じなかった。
しかし、そんな一点張りの主張も毎月毎月かかってくる電話の前にだんだん弱り始めていた。
やっぱり返済すべきだろうか.....
そんな考えが頭を過っていた。
この件に関しては、両親にも相談をしており、「そんなお金は払う必要がない」
と言われていたのだが、もう一度相談してみることにした。
過去に祖父の事業を引き継いで大工の社長として働いていた経験があった父親に相談してみた。
すると父親は、お金は絶対に払わなくていいし、逆にこちらから裁判を起こせばタニサキからお金をとれる可能性がある。敵をとってやる的なことを言い、熱くなっていた。
私は改めてお金は支払わなくていいということを言われ安心し、父親に相談して良かったと思った。
タニサキ逮捕と夢の終わり
詐欺に合ってから半年くらい経った頃、警察から急に電話がかかってきた。
電話に出てみると、詐欺師の男が逮捕されたとのこと。
すぐにタニサキの顔と一連の事件のことがフラッシュバックした。
ただ、「逮捕されたのはほんとうにタニサキなのだろうか?」と半信半疑ではあった。
警察署に行ってみると、私が詐欺に合ったときの状況を詳しく説明してほしいと言われ、半年前に交番で話したような内容を10分ほどかけて丁寧に話した。
その後、この中にタニサキはいる?と、リストアップされた10人の男の写真を見せられた。恐らくなんらかの事件を起こし、逮捕されている容疑者のリストだろう。
その瞬間、穏やかだった心臓の音がが急に大きくなった。
タニサキがいた。
”こいつがタニサキです。”私は即答した。
事情を聞いてみるとタニサキは私以外にも同じような手口で複数の詐欺を働いていた。
スタイリストを名乗る手法は彼の得意とする詐欺だったらしい。
しかし、同じように騙された一人が、車のナンバーを記憶していたことがきっかけで車を特定。逮捕に至ったとのこと。
その後、私は警官と一緒に待ち合わせ場所や面接をしたカフェ、どこに車を止めてタニサキはどういう行動をしたのか。という現場検証を行った。
面接を行ったカフェは相変わらずオシャレな人達でにぎわっていたが、体が拒否反応を起こし、店に入ると気分が悪くなった。
「ありがとうございました。これで現場検証は終わりです。」
いかにも業務的な口調で警官は言い、約2時間にも及ぶ現場検証が終わった。
今後この事件について裁判が執り行われるらしく、もしかしたら私も証言台に立つ可能性があるという説明を受けた。
ただ具体的な日程なども分からないため、一応頭に入れておいてほしいと言われ、警察署を後にした。
私はこの事件以降、洋服のことを考えなくなってた。
天からのお告げで、”お前にはファッションは無理だ。諦めて別の道を進め。”
と言われたような気がして、夢を諦めた。
しかし結局は、天からのお告げでもなんでもなく、野球と一緒で本気になれなかっただけだった。
というのも警察署で話を聞いていると、私と同じようにスタイリストを目指す大学生がいたらしい。その彼はタニサキに騙されたあとも一生懸命自分の夢を追い続け、スタイリストアシスタントとして東京で働くことが決まったとのこと。
やっぱり最後は諦めないやつが勝つ。
諦めた瞬間に夢は終わるということを身に染みて学んだ瞬間だった。
続く。
詐欺師にがっつり騙された話②
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タニサキさん
「プルルルル。プルル。ガチャ」
私:あ、もしもしmixiの書き込みをみてご連絡させていただきました。サカモトと申します。まだ募集の方はしておりますでしょうか。
スタイリスト:あ、どうもこんばんは!タニサキと申します。まだ募集してますよー。ほんなら今度面接しましょかー。履歴書書いて持ってきてもらえますかー。
私:は、はい!分かりました!履歴書ですね。その他に何か必要なものはありますか?
スタイリスト:ん~。そやなー、特にないかな。そういえばサカモト君は仮に採用になった場合いつから動けるー??
私:え、あ、そうですね。いつからでも動けます!!
スタイリスト:ほんまに!?それめっちゃ助かるわー!というのも今何人か面接してるんやけど、みんな大阪以外のところに住んどるらしくて、すぐに働けないっていう子ばっかなんやわー。どうしよ、サカモト君ほぼ採用決定かもしれへんわー。
私:ほ、ほんとですか!?
スタイリスト:うん。でもほぼやで。やっぱり面接してみんと分からんこともあるから確定ではないけどなー。でも今こうやってしゃべってる感じみてもええ感じやしー、大丈夫やと思うわー。
私:ありがとうございます!
スタイリスト:んじゃ、1月10日に堀江のオレンジストリートまで来てくれますかー?車で迎えに行くんで、その辺のカフェで面接しましょかー。
私:分かりました。宜しくお願いいたします!
スタイリスト:あ、そやそや。一個忘れとったー。もしサカモト君を採用することになったら、その日のうちに仕事で使うパソコンとか買いに行って、一緒に必要なソフトインストールしようと思うから、お金用意して欲しいんやけど準備できるー?
私:分かりました!いくら準備すればいいですか?
スタイリスト:そやなー。MacのパソコンとiPadも買わなあかんから30万円くらいかなー?
私:え?30万円ですか!?すみません、そんなに準備できません。
スタイリスト:あ、ほんまー。大丈夫やでー。そしたらクレジットカードだけ持ってきといてー。
私:分かりました!
スタイリスト:ほな、宜しくね~。
私:ありがとうござます!失礼します!
「ガチャ。」
緊張しっぱなしの5分間が終わった。
私はついに憧れのスタイリストへの第一歩を踏み出すことができるかもしれない。
あとはタニサキさんに気に入ってもらうことができれば、晴れてスタイリストアシスタントとして、仕事をすることができる!
私の未来は希望でいっぱいのはずだった。
面接
寒さが日に日に増してきた1月10日。
待ち合わせ場所に約1時間遅れて、タニサキさんはやってきた。
タニサキ:あー。ごめんごめん。ちょっと撮影が押してもうてなー。ダッシュで向かってたんやけど、もうちょっとで高速降りるってところで速度違反でポリに捕まってもうてん!もうほんま今日最悪やわ~。ガハハハハッ
タニサキさんは電話で話したときと同じようなテンションで、待ち合わせ場所に遅れた理由を説明してくれた。
タニサキさんの風貌はというと、身長は175㎝くらいのぽっちゃり体系。
年齢は多分20代後半。
口周りには無精ひげを生やしており、ポッコリ出ているお腹以外はいかにもオシャレな兄ちゃんという感じだった。
そしていかにも高級そうな革のジャケットを羽織っていた。
何よりも豪快な笑い方が特徴的だった。
とりあえず乗ってやー。と案内されたのは軽自動車の助手席だった。
助手席に案内されるのは至って普通だと思うのだが、私としてはもっと高級な車をイメージしていたので少し違和感を覚えた。
不安に感じている私のことを察したのだろうか、タニサキさんは続けてこういった。
タニサキ:この車ガラクタやろ!俺東京ではハマーに乗ってるんやけど、こっちで仕事するときの車がまだなくてな。しゃーなしこれやねん。だからサカモト君ももし東京で俺の仕事を手伝うときがあったら、ハマー運転してもらうからな!あれごっつでかいから多分難儀するでー。ガハハハハッ
タニサキさんは、主に東京と大阪でスタイリストの仕事をしており、最近大阪での仕事も増えてきたとのこと。なので大阪で乗る車を現在検討中らしい。
10分くらい他愛のない会話をしていると目的のカフェに到着した。
タニサキ:ここで面接しよかー。
そこは雰囲気の良いカフェで、読者モデルでもやっていそうな女の子や、オシャレなカップルでいっぱいだった。
ちょうどお昼時だったので、ランチをご馳走してくれることになった。
私は緊張で食事どころではなかったのだが、せっかくなので何か食べることにした。
タニサキさんはポークジンジャーを。私は野菜カレーを注文した。
料理が運ばれてくる間に面接を行うことになった。
タニサキ:履歴書持ってきてくれた?
私は持ってきた履歴書をタニサキさんに渡した。
タニサキさんはしばらく履歴書に目を通していたが、その後履歴書をに触れることはなかった。
一通り履歴書に目を通し終わると、タニサキさんは自分が手掛けている仕事について話し出した。
タニサキ:そういえばこの前、嵐と仕事してん。むっちゃ大変だったわー。
確かに当時、嵐が出演する「Wiiパーティ」や「マリオカート」のCMがテレビで流れていた。
タニサキ:嵐が出演してる任天堂WiiのCM知ってる?あのスタイリスト俺やねん。
私:ほんとですか!?すごいですね!
タニサキ:あいつら我儘やから現場の人間は苦労するわー。サカモト君もそのうち経験することになるでー。ガハハハハッ
その後もタニサキさんは料理が運ばれてるくる間、自分が手掛けた仕事をiPadを使いながら丁寧に説明してくれた。
iPadの中には、スタイルの良い外国人モデルがパリコレに出てくるような奇抜な洋服を身にまとい、ポージングを決めていた。
私はそれを見ながら、これから超一流のスタイリストと一緒に仕事ができるかもしれない。
そして将来、自分自身も同じようにいろんな芸能人やモデル相手に仕事をしてみたいと、心躍らせていた。
今、思い返してみるとタニサキさんは本当によくしゃべる人だった。特にスタイリストの苦労話と、人の悪口や噂話が大好きな人だった。
採用
やっぱり出された食事にはほとんど手を付けることができなかった。
緊張しすぎて食べたカレーをもどしそうになった。
タニサキ:このポークジンジャーまっずいわー。なにこれ?ゴム食べてるみたいやわー。ガハハハッ
店員さんが近くにいるにも関わらず、タニサキさんは料理にも文句を言っていた。
タニサキ:サカモト君全然食べてへんやん!もうええんか?スタイリストになったら食事の時間なんてほとんどないんやから、早食いの練習しといた方がええでー。
私:すみません。ちょっと緊張しすぎて食事どころではなかったです。
タニサキ:そかそかー。ほんなら店出よかー。
タニサキさんはお会計をするために、財布からお金を取り出した。
ごっつい財布からは100万円はありそうなお札の束が見えた。
やっぱりスタイリストは儲かる仕事なんだ。
そしてタニサキさんはすごい人なんだと改めて思った。
カフェから出ると再び車に乗った。
私:これからどこに行くんですか?
タニサキ:サカモト君のMacとiPad買いに行かなあかんやろー!
私:え?ってことは採用してくれるってことですか?
タニサキ:そういうことやー!
私:ありがとございます!!!
ついに私は、スタイリストのアシスタントとして採用されることになった。
この時、めちゃくちゃ嬉しかったのを今でも覚えている。
大学の友達連中よりも一足先に、就職先を決め、しかも自分が一番好きなファッションの世界で働くことができる。こんな嬉しいことはなかった。
タニサキ:スタイリストの仕事について何か聞きたいこととかある?
私:えーと。タニサキさんは普段どんな仕事してるんですか?
タニサキ:そやなー。さっき言ったみたいに、撮影の現場に足を運んだりもするけど、それはオマケのようなもんでな。実際は服をリースしたり、時にはリメイクしたりするのに膨大な時間がかかるんよ。あとは打ち合わせにもかなり時間かかるし。一見華やかな世界に見えるけど実際は結構地味な仕事ばっかりやで。ほんまに洋服が好きな奴しか続かんと思うわ。
私:そうなんですね。自分も頑張ります!
タニサキ:だからセンスよりも、根性とかの方が大切やねん。サカモト君は未経験やけど野球やっとったみたいやし、大丈夫や!3年も頑張れば一人前のスタイリストになれるで!
高級そうな革ジャンを着ていること
東京ではハマーに乗っていること
嵐やパリコレモデルのような有名人と一緒に仕事をしていること
財布に100万円入っていること
未経験でも大丈夫という言葉
今考えればいかにも胡散臭いが、その時の私はタニサキさんを完全に信じ切っていた。
そして夢はどんどんと膨らんでいった。
時すでに遅し
しばらく車を走らせると、タニサキさんはパソコン専門店の近くで車を止めた。
タニサキ:実はなこのショップの店長さんと俺知り合いやねん。すでにサカモト君の話はしとってな、割引価格でMacを購入できることになってんのや。
私:ほんとですか?ありがとうございます!
タニサキ:あ、クレジットカード持ってきてくれたー!?
私:はい!持ってきました!
タニサキ:一緒に行ってサカモト君のことも店長さんに紹介したいところやねんけどな、ここ実は駐車禁止区域なんや。やからサカモト君留守番しとってくれる?
私:え?一緒に行かないんですか?
タニサキ:おれがパパッと買ってくるからちょっと待っといてー!
私:分かりました。
タニサキ:ほんならクレジットカード貸してくれる?あとパスワードも教えてー。
当然だが、クレジットカードを他人に渡したことも、パスワードを教えたことも初めてだった。「ほんとに大丈夫か?」という言葉が一瞬頭を過ったが、自分の人生を導いてくれるタニサキさんのことを信頼することにした。
私のクレジットカードを持ったタニサキさんは、パソコン専門店の方へ”向かっていった”。
というのも車を止めている場所からパソコン専門店は角度的に見えない。なので車の中からタニサキさんを目で追っても、パソコン専門店に入る瞬間は見ることができないのだ。
タニサキさんはなかなか戻ってこなかった。
自分の中では10分くらいで戻ってくるだろうと思っていたが、30分経っても戻って来なかった。だんだんと不安になってきた。そりゃそうだ、出会ったばかりの他人に自分のクレジットカードを預けているのだから。
タニサキさんは本当にパソコンを買ってきてくれるのだろうか?
不安は更に大きくなっていった。
40分を経過した頃だろうか。タニサキさんが小走りで戻ってくるのが見えた。
タニサキ:ごめんごめん!ちょっと店長と話込んでた!
タニサキさんが戻ってきたことに安心はしたが、その手にMacは持っていなかった。
私:Macのパソコンは買わなかったんですか?
タニサキ:買ったでー!でも在庫がなかったから、俺の事務所に送ってもらうことにしたー!今日はソフトインストールできひんけど、届いたら俺が勝手にやっとくわー!
どうやら私の不安は杞憂に終わった。
タニサキさんはやっぱり信頼できる人だった。
私:今日はこれで終わりですか?
タニサキ:せっかくやから仕事仲間のカメラマンのところに挨拶行っとこかー。
私:挨拶ですか?分かりました!宜しくお願いします!
パソコンを購入した後、タニサキさんと私は、仕事の仲間のカメラマンさんのところへ挨拶へ行くことになり、引き続きタニサキさんは車を走らせた。
目的地は聞かなかったのだが、15分くらいで到着するとのこと。
車内では具体的な仕事の話をした。
まず、最初の仕事はアイロンがけ。
アイロンがけが慣れたら次に洋服をリースする仕事をタニサキさんから引き継ぐ。
ヴィトンの店長さんはみんな厳しい人達だから礼儀には気を付けろと教えてくれた。
話も弾み、だんだん緊張がとれてきた私は、急におしっこが我慢できなくなった。
カメラマンさんの事務所に着いてからにしようと最初は思っていたが、限界が近づいてきたので、トイレに寄ってもらうことにした。
私:タニサキさんすみません。ちょっとお手洗いに行ってきてもいいですか?
タニサキ:ええで、ええで!もうちょい待ってや。あそこの百貨店前で車止めるわ。
私:ありがとうございます。すぐに行ってきます!
タニサキ:ここで待ってるわな。
私は漏れる寸前だったため、携帯電話以外の荷物をすべて車に残したまま、飛び出した。
私がトイレに行っていた時間はおそらく5分にも満たなかったと思う。
急いで同じ場所に戻ってきた時、タニサキさんの車はどこにもなかった。
続く。
詐欺師にがっつり騙された話①
嘘のようなほんとの話。
大学入学
高校までの18年間を振り返って感想を言ってください。
と質問されたとすると私は間違いなく、「野球だけをやってきました。」
と答えると思う。
それくらい野球しかやってこなかった。
当時は自分には野球以外の選択肢なんてないと思っていたし、何より野球以外のことを考えるのがめんどくさかった。
地元の仲の良い友達もみんな同じように野球をやっていたし、小学生の頃から授業が終われば野球の練習をする。というのが日常だった。
2011年の夏、高校三年生だった私は野球人生に終止符を打つことになる。
チームは県予選の3回戦で負けた。
私はその様子をレフト側スタンドでメガホン片手に見ていた。
試合終了のサイレンが鳴った時も、監督さんが最後の挨拶をするときも、涙は一滴たりとも流れなかった。
当時はなぜ涙が流れないんだろう?と不思議に思っていたが、今思うと本気で野球がうまくなりたい、本気でレギュラーになりたいと思っていなかったので、悔しくなかったんだと思う。そう、私は負けず嫌いじゃないし、全然熱い方でもない。
今までの18年間は野球の練習をしてうまくなる、レギュラーになることが一応目標としてあったが、それが一気になくなった。
野球をやっていた頃は、野球のない人生を強く望んでいたにも関わらず、実際そうなるとこんなにもつまらないものなのかと思った。
自分でもびっくりするくらいやることがなかったし、何をしていいのか分からなかった。
結局、野球を引退した後の半年は勉強や他のスポーツ、趣味に没頭するわけでもなく地元の友達とボーリングやカラオケと言った娯楽にお金と時間を費やした。
しかし、高校3年生なんてものは一瞬で、いつのまにか就職をするか大学に行くかの2択を選ばなければならなくなった。
家に大学に行くお金なんかないと思っていたので、迷わず就職の道を選んだのだが、それだけはやめてほしいと両親から説得され、流されるままに大学に進学することにした。
恐らく両親は自分たちの収入が低い原因が大学に行ってないからだと思い込んでいたから私に大学進学を進めたのだと思う。
しかし、今までまともに勉強なんてやってこなかったので、行ける大学は限られており、簡単に言ってしまえば適当にマークシートを塗りつぶせば合格するような大学に入学するしかなかった。
このとき人生で初めて勉強しとけばよかったと思ったが、時すでに遅しとはまさにこのことだった。
大学の入学式は今でもよく覚えている。
なぜならここではもう野球をしなくてもいい、自分の好きなことをして生きていけばいいのだ。と人生の第二章が始まったと今まで経験したことがないような清々しさを感じていたからだ。
自分が知っている人は誰一人としていない、新たな人生の始まりだった。
そんな希望に溢れた持ちもすぐに薄れていくことはまだこの時の私は知らない。
退屈
大学生活にもある程度慣れ、半年が経過した頃だろうか。
それなりに友人もでき、授業も人並みに出席していたので、単位も全く問題はなかった。
しかし、1つ大きな悩みを抱えていた。
いつもと同じ友だちと他愛のない会話をしたり、ゲームをしたりカラオケに行ったりする毎日が退屈だった。
刺激に飢えていた。
大学では野球とは無縁の生活を送っていたので、胸を張って得意と言えるようなことは何一つとしてない。だから余計に無味無臭の面白さのかけらもない大学生だったと思う。
しかし、そんな無味無臭の私にも大好きなことがたった一つだけあった。
ファッションが好きだった。
地元にいた頃は、自分の服装を気にしたことなんて一度もない。
オシャレをするといってもいつもジーンズにパーカーだったし、地元で遊ぶときはジャージ以外を着る必要がなかった。
しかし、初めて地元を出て都会の街並みを歩いてみると自分の服装がみすぼらしく感じた。と同時に自分以外のすべての人の服装がオシャレでかっこよく見えた。
そこからというもの、気になったファッション雑誌を片っ端から購入し、全く同じブランドの服を買うにはお金が足りなかったので、似たようなモノを古着屋で探すことが趣味になっていた。
雑居ビルの中にあるいかにも怪しげなショップにもよく足を運んだ。
行ったことがない古着屋を探すことが楽しかったし、服を選ぶこと、服を着ることがなにより幸せを感じる瞬間だった。
野球以外でここまで何かにのめり込んだのは初めてだった。
就職活動
大学生活は本当にあっという間で、気が付けば22歳。
来年になると、就職し働かなければならないが不思議と焦りや不安はなかった。
というのも周りの連中も特に就職については焦っておらず、「なんとかなるでしょ」という空気感で、友達と将来どんな仕事につきたいとか、どんなことがしたいかという具体的な話をすることはなかった。
22歳になった私は相変わらずファッションのことで頭がいっぱいだった。
将来は服飾関係の仕事に就きたいとは思っていたが、具体的にどんな仕事がしたいかとかはなかった。
ただ、販売員だけはやりたくないと思っていた。
毎月沢山服を購入していたので、多くの販売員さんと仲良くなっていたが、その仕事になんの魅力も感じなかったからです。
すごく悪い言い方になってしまうが、洋服屋さんって土日を除いてはそこまで多くのお客さんが来るわけじゃないと思うんですね。多分ですけど平日は一日に30人くらい来店したら多い方じゃないでしょうか?(これも洋服屋さんによると思いますけど)
そして30人来店したとしても、1分くらいで店を出る人もいるだろうし、恐らく半分の15人に接客できればいい方だと思う。
それを考えるとどうしても私は「ヒマな仕事」という印象を持ってしまった。
じゃあ、一回洋服屋で働いてみろよ。っていう話ですが、それすらも時間の無駄じゃん?と考えていた。
じゃあ、どんな仕事がしたいの?と自分に問いかけていくうちに、漠然ともっとクリエイティブな仕事がしたい。
そう思っていた。
当時は服の組み合わせ方に興味があり、自分なりに研究していた。
気が付けば将来はスタイリストという仕事に就いてみたい!と思うようになっていた。
奇跡
販売員にはなりたくない、もっとクリエイティブな仕事がしたい、可能ならばスタイリストになりたい。
と思っていた私は ある行動に出る。
かなりダメ元ではあったが、当時大流行していたmixiというSNSを使ってスタイリストの師匠を見つけることはできないか?と考えた。
そこで、トピックの検索窓に「スタイリスト 募集」と入力し、アルバイトを探しているスタイリストがいないか検索してみることにした。
ほとんど期待はしていなかったが、なんと20件もヒットした。
まさかこんなに多くの書き込みがあるとは思ってもいなかったので、私の中の期待はどんどん膨らんでいった。
片っ端から書き込みを見てみると、さっきまでの興奮がどんどん冷めていくのが分かった。
というのもアルバイトを探しているのはほとんどが「東京在住」を条件にしているものだったからだ。
それでもやってみようかと思い、一瞬携帯を手に取ってみたが、流石に交通費にお金がかかりすぎると思い電話をかけるのをやめた。
まだ目を通していない書き込みは僅かで、「人生そんなに簡単にはいかないか」と諦めかけていたその時だった。
なんと私が住んでいる地域でアルバイトを募集している書き込みがあった。
「現在2名募集中。すでに1名は決まっているので、募集が終了している可能性があります。」
と書いてあったのでとにかく急いで電話をかけることにした。
もしかしたら夢に一歩近づけるかもしれない。
そんな思いを胸に心臓が爆発しそうになるのを抑えながら、コールボタンを押した。
「プルルルル。プルル。ガチャ。」
思ったよりも早く、2コール目で相手は電話に出た。
続く。