人生の議事録

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詐欺師にがっつり騙された話③

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パニック

トイレから戻ってきたらタニサキさんの車はどこにもなかった。

 

これから一緒に仕事仲間のカメラマンさんのところに挨拶にいくのだ。

黙っていなくなるはずがない。

 

そうだ。この辺りは車通りが多く、私を下した場所は駐車禁止区域だったので警備員に注意されたに違いない。だから今、どこかで車をUターンさせているに違いない。

 

そう思った私は、しばらく同じ場所でタニサキさんを待つことにした。

 

10分くらい待っただろうか?

タニサキさんの車は一向に戻って来ない。

 

何かトラブルでもあったのだろうか。

そう感じた私はタニサキさんに電話をしてみることにした。

しかし、何度かけても繋がらない。

 

いても立ってもいられなくなった私は、百貨店周辺を探してみることにした。

一瞬最悪の結末が頭を過ったが、それだけは考えたくなかった。

 

真冬の商店街を走って走って走りまくった。

もしかしたら近くの駐車場で待機しているかもしれない。

交通事故に巻き込まれて、身動きが取れない状況になっているのかもしれない。

 

何か予期せぬトラブルに巻き込まれているはずだ。

私はこれからタニサキさんと一緒にカメラマンさんのところに挨拶にいかなければならない。

 

こんなところで時間を消費している場合ではなかった。

 

結局周囲を1時間近く探したがタニサキさんの車を見つけることはできなかった。

 

そして今までの出来事を改めて振り返ってみた。

 

 

有名なスタイリスなのにも関わらず、軽自動車に乗っている髭面のおっさん。

私の話には全然興味を持たず、ひたすら自分の話ばかりするおっさん。

人の悪口と噂話が大好きでそれを恥ずかしげもなく堂々と語るおっさん。

いかにも自分が金持ちだということをアピールするかの如く、札束をちらつかせてきたおっさん

 

 

私は騙されたと悟った。

あいつはスタイリストなんかじゃない。

ただの詐欺師だ。

 

 

 

警察

私は急いで警察に駆け込んだ。

 

私:詐欺師に騙されました。

 

この第一声に警官も「はぁ?」という感じだった。

まぁ、そうだろう。

 

こんな寒空の中、汗だくになりながら交番に駆け込んでくるやつにまともな奴がいるはずがない。

ましては第一声が「詐欺師に騙されました」では余計に変人扱いだろう。

 私が警官でも恐らく同じリアクションをしていたと思う。

 

「はいはい。」という感じであしらわれていると奥から若手の警官が出てきた。

どうやらこの警官が事情聴取をしてくれるらしい。

 

話始めた私は意外と落ち着いていた、今日の出来事を若い警官に向かって淡々と話した。

トイレに行き、タニサキさんが姿を消した件を話し終えたところで、その若い警官は「あーそれは完全にやられたね」と一言だけ言った。

 

いかにも「お前バカじゃん」という言い方に腹が立ったが、私がバカだったという事実は変わらない。ただ、夢をぶち壊された直後なだけに腹が立った。

 

私の話を信用してもらえたのだろうか、隣で話を聞いていた上司らしき人も交えてもっと細かい事情聴取に変わった。

 

具体的に何時何分ごろにどこで何をしていたのかというのを細かく聞かれた。

そして答えるたびに、何やらメモを取っていた。

 

結局、事情聴取は2時間近くかかり、辺りは真っ暗になっていた。

時計を見ると午後8時を少し過ぎていた。

 

8時間前の私は、こんな結末になるとは予想もしていなかった。

 

携帯電話以外のすべての荷物をタニサキの車に置いてきたため、お金は一銭もなかった。

 

事情を説明し、交番で電車代の500円借りてなんとか最寄駅まで帰ることができた。

 

しかし、最寄り駅についてからも大変だった。

なんせ家に入るためのカギがない。

友達に片っ端から電話をかけ、なんとか泊めてもらえることになった。

 

 

 

クレジットカード利用明細

私はクレジットカードをタニサキに渡したままだった。

交番から電話してすぐにクレジットカードは止めたものの、制限いっぱいまで利用されていた。

 

翌月には30万円の請求書がきた。

 

見ず知らずの他人にクレジットカード渡し、パスワードを教えた私にも非があるのは十分分かっているが、どうしてもこの30万円は支払う気になれなかった。

 

なのでどれだけ請求書が来ても一向に支払はなかった。

 

するとやがて、お金を回収する専門の機関から電話がかかってくるようになった。

 

その担当者とは何度も電話で話した。

向こうはとりあえず、分割払いでもいいから返せと。

 

私は1円たりとも支払う気はなかったので、私は被害者だ。私に請求されても困る。の一点張りで支払いには応じなかった。

 

しかし、そんな一点張りの主張も毎月毎月かかってくる電話の前にだんだん弱り始めていた。

 

やっぱり返済すべきだろうか.....

そんな考えが頭を過っていた。

 

この件に関しては、両親にも相談をしており、「そんなお金は払う必要がない」

と言われていたのだが、もう一度相談してみることにした。

 

過去に祖父の事業を引き継いで大工の社長として働いていた経験があった父親に相談してみた。

 

すると父親は、お金は絶対に払わなくていいし、逆にこちらから裁判を起こせばタニサキからお金をとれる可能性がある。敵をとってやる的なことを言い、熱くなっていた。

 

私は改めてお金は支払わなくていいということを言われ安心し、父親に相談して良かったと思った。

 

 

 

タニサキ逮捕と夢の終わり

詐欺に合ってから半年くらい経った頃、警察から急に電話がかかってきた。

電話に出てみると、詐欺師の男が逮捕されたとのこと。

 

すぐにタニサキの顔と一連の事件のことがフラッシュバックした。

 

ただ、「逮捕されたのはほんとうにタニサキなのだろうか?」と半信半疑ではあった。

 

警察署に行ってみると、私が詐欺に合ったときの状況を詳しく説明してほしいと言われ、半年前に交番で話したような内容を10分ほどかけて丁寧に話した。

 

その後、この中にタニサキはいる?と、リストアップされた10人の男の写真を見せられた。恐らくなんらかの事件を起こし、逮捕されている容疑者のリストだろう。

 

その瞬間、穏やかだった心臓の音がが急に大きくなった。

 

タニサキがいた。

 

”こいつがタニサキです。”私は即答した。

 

事情を聞いてみるとタニサキは私以外にも同じような手口で複数の詐欺を働いていた。

スタイリストを名乗る手法は彼の得意とする詐欺だったらしい。

 

しかし、同じように騙された一人が、車のナンバーを記憶していたことがきっかけで車を特定。逮捕に至ったとのこと。

 

その後、私は警官と一緒に待ち合わせ場所や面接をしたカフェ、どこに車を止めてタニサキはどういう行動をしたのか。という現場検証を行った。

 

面接を行ったカフェは相変わらずオシャレな人達でにぎわっていたが、体が拒否反応を起こし、店に入ると気分が悪くなった。

 

「ありがとうございました。これで現場検証は終わりです。」

 

いかにも業務的な口調で警官は言い、約2時間にも及ぶ現場検証が終わった。

 

今後この事件について裁判が執り行われるらしく、もしかしたら私も証言台に立つ可能性があるという説明を受けた。

 

ただ具体的な日程なども分からないため、一応頭に入れておいてほしいと言われ、警察署を後にした。

 

私はこの事件以降、洋服のことを考えなくなってた。

天からのお告げで、”お前にはファッションは無理だ。諦めて別の道を進め。”

と言われたような気がして、夢を諦めた。

 

しかし結局は、天からのお告げでもなんでもなく、野球と一緒で本気になれなかっただけだった。

 

というのも警察署で話を聞いていると、私と同じようにスタイリストを目指す大学生がいたらしい。その彼はタニサキに騙されたあとも一生懸命自分の夢を追い続け、スタイリストアシスタントとして東京で働くことが決まったとのこと。

 

やっぱり最後は諦めないやつが勝つ。

 

諦めた瞬間に夢は終わるということを身に染みて学んだ瞬間だった。

 

 

続く。