人生の議事録

やっていることとか、考えたこととか。

ぼったくりバーやんけ!

最近の土日の過ごし方と言ったら、本を読む、英語の勉強、ランニングなどと完全にルーティン化していて飽きていた。

 

昨年の12月にたった2ヵ月しか付き合っていない彼女と別れてからは、女の子としゃべる機会も激減していて、正直なところかなりもんもんとしていた。

 

そして更に拍車をかけたのは、最近息抜きに読んでいる小説だ。

「ぼくは愛を証明しようと思う。」という本で、この本を書いている藤沢数希という人物は恋愛工学なるものを研究している。

 

本の内容をざっくりと説明すると、非モテの男があるカリスマナンパ師と出会い、それをきっかけに急激にモテていく。そのモテるまでのストーリーを細かく描いている本だ。

 

その本を読んでいるうちに、僕はどうしても女の子としゃべりたくなってしまった。

時間は現在、午後3時。

急だが今ならなんとか暇な友達を捕まえることができるかもしれない。

そう思った。

そして2人でナンパを目的に街へくりだそうと考えた。

 

決まって連絡をするのは、大学の友達である浜崎だ。

彼は広告代理店に勤めていて、かなり忙しくしている。

人一倍ストイックな性格で、休日も本を読み自らのスキルアップに励んでいる。

そして現在彼女はいない。

そんなことよりも彼は生粋のイエスマンだ。

どんな時も誘ったら大体二つ返事で来てくれる。

 

浜崎から連絡が来たのは、午後5時だった。

僕は、ちょうど1週間分の買い物を終え帰宅したところだった。

 

内容はいつもと同じで、

「OK、何時から?」

 

僕は、「んじゃ、19時に心斎橋で!」

と一言送り、購入した野菜やら肉やらを1食分ずつにカットし、冷蔵庫に入れた。

 

心斎橋にある肉バルを予約し、ビールを飲んでいると20分遅れで浜崎がやってきた。

彼は遅刻の常習犯だ。

僕はそれに対して前ほどイラつかなくなっていた。

 

「悪い悪い!」

と言いつつまったく悪びれた様子なく店内に入ってきた浜崎は、座ると同時に僕が飲んでいた瓶ビールを飲みだした。

 

1時間ほど仕事の話やプライベートの話をし、今日の目的であるナンパをするために店を出た。

 

いきなりストリートナンパをするのは、勇気がいるのでとりあえずラウンジに入ることにした。

そのラウンジは、相席屋の高級店みたいなイメージで、基本的に女性は無料で飲食でき、男性が女性の飲食代もまかなうというシステムだ。

 

初めて入るその店内は、かなり清潔感のある雰囲気で、悪くなかった。

しかし、女の子は無料で飲食できるということで、入口には20人ほどが列をなしており、「トウキョウソナタ」という映画で見た、配給に並ぶリストラサラリーマンのようだった。

 

僕たちが案内された席にはすでに、2人の女性が座っており、一通りの飲食を済ませているようだった。

 

軽く自己紹介をし、お酒を注文し乾杯することにした。

相席した女性はスタジオカメラマンの先輩後輩関係で、ちょくちょくこの店を利用しているとのことだった。

 

現在はカメラマンをしているらしいが、もともとは地下アイドルをしていたり、メイド喫茶で副店長をしていたりと、2人ともかなり個性が強く、その場はかなり盛り上がった。

 

1時間ほどワイワイしていたが、そろそろ他の女の子とも喋りたくなったので、店を移ることにした。

もちろん4人でLINEを交換し、後日またご飯でも行こうと口約束を交わした。

 

2件目に選んだのは「ASOBI BER」という場所で、ここも今回初めて行ったのだが、一言でいうとクラブとハブのちょうど中間に位置するようなお店だった。

 

店内にはダンスミュージックがかかっており、僕は3年前クラブスタッフとしてアルバイトをしていたことを思い出してた。

気分はもうクラブスタッフだったので、女の子に声をかけることに抵抗は全くなかった。

 

5分ほど店内を物色し、大学生風の2人組に声をかけた。

この時はまだ、あんな怪しい店に行くとこになるとは思いもしなかった。

 

名前はリナとエミと言うらしく、現役の大学生だった。

2人とも少し前まで中国に留学をしていたらしく、中国語はぺらぺら。

 

そして身なりは、落ち着いているように見えるが明らかに遊び慣れている感じだった。

初対面で10分ほどしゃべっただけなのに、

 

「どっちがビッチだと思う?」

 

という質問を平気でしてくるレベルだ。

その後、生活支援してくれているパパがいるとか、セフレに有名サッカー選手がいるだとかのモテ自慢を一通り聞いた。

 

お酒さえ入っていなければ、「くだらない」とその場を30分もしないうちに離れるのだが、僕も浜崎もそれなりに酔っぱらっていた。

そしてあわよくば、ワンナイトラブがあるんじゃないか?

という期待を胸にそわそわしていた。

 

また、2人はクラブにもよく行くようで僕が勤めていたクラブのことも知っていた。

僕が一番お世話になった店長さんとも飲んだことがあると聞いたときはちょっと驚いたが、まあ、世間は狭い。そんなもんだ。

 

そのバーでは結局1時ほど飲んでいた。

後半にはテキーラも出てきたので、正直僕はすでに飲めるお酒の許容範囲を超えていた。

 

そんな僕とは裏腹にリナとエミとにかく元気だった。

むしろ、これからという感じ。

 

次どうする?

という話になり、僕らはもう帰ろうかと思っていたが、2人が知り合いのバーでもう1杯飲みたいと言ったので、そこに行くことにした。

 

大阪には危険がたくさん潜んでいるのを知っているので、もちろん僕たちは警戒していた。

ただ、彼女たちの知り合いの店でお酒も安いからということで、半信半疑ではあったがそのバーに行くことになった。

 

「安心して!これから行くところは絶対にぼったくりバーじゃないから!」

 

エミは度々そう言った。

それが逆に僕を不安にさせた。

 

そのバーは、雑居ビルの9Fにあった。

真っ白に塗装された扉を開くと、やんちゃそうな20歳前後の兄ちゃんたちが10畳ほどの狭い店内に5、6人いた。

それ以外に客はゼロ。

 

どうやら彼らは全員店員らしい。

 

「あ、やられた。」

 

この時点で僕の防衛本能が警告を発した。

細胞レベルでここはやばい。

そう思った。

 

店内には、やんちゃな兄ちゃんが6人。

一緒に来た女の子が2人。

おそらくやんちゃな兄ちゃんの誰かの彼女らしき女性が一人。

そして僕と浜崎。

 

完全にかもられる構図が出来上がっていた。

 

僕の酔いは一気に冷め、なんとかこの店を出る方法はないかと考えた。

店に入ってすぐに「やっぱり出ます」とは当然言えないので、とりあえず適当にビールを注文することにした。

 

そしてなぜか、やんちゃな兄ちゃんたちも自分たちのドリンクを作っている。

このお会計はもちろん僕たちが支払うことになるのだろうな...

そんなことを考えながら、僕はひたすら脱出方法を考えていた。

 

一方の浜崎は、完全に酔っぱらっていて、緊急事態にまったく気が付いてない。

むしろ、その場を全力で楽しんでいる。

能天気にもほどがある。

 

でもここは僕がなんとかしなければならない。

じゃないと僕も浜崎も必ず、金銭的に死ぬことになるのだから。

 

引き続き僕は全力で警戒し続けた。

出されたビールには乾杯の時に一口飲んだだけで、あとは飲まなかった。

というより、飲む気になれなかった。

 

店に着いてから10分ほど経過した時点で、作戦を考えるためにトイレにこもることにした。

 

こもること5分、僕は作戦を実行することにした。

 

僕が考えた作戦は、単純そのもので、友達から連絡が来て急きょ合流することになった。だから長居はできない。

 

というもの。

 

トイレから出て、席に戻った瞬間にちょっと緊急を装い、浜崎にこの件を伝えた。

女の子は残念そうで、店内に設置されてあるダーツやらゲームやらを一緒にしたそうだった。

 

しかし、こちらからするといい迷惑で、そのゲーム代にいくら取られるかも分からない。

全力でやりたくない。

 

ただ酔っぱらっている浜崎はノリノリでダーツをする気満々だった。

女の子たちは浜崎を金づるだと思ったのか、腕を組んで楽しそうに話をしている。

完全に浜崎のハートを打ち抜いていた。

 

僕は全力で、「目を覚ませ!」と念を送ったが、当然のごとくそれは届かなかった。

 

そんなやり取りをしているうちに、女の子のドリンクはなくなり次々と追加注文をしている。更にはやんちゃな兄ちゃんたちも自分たちのドリンクを追加で作っているではないか...

 

本格的に早く出た方がいい。

強くそう感じた。

 

店に入ってから、20分経つか経たないかくらいの時に僕はついにしびれを切らした。

浜崎に向かって大きな声で、

 

「矢野が到着したみたい!そろそろ行くで!」

 

合流予定の矢野が来たという体で、店を出る決心をした。

女の子たちには引き留められると思ったが、案外あっさりお会計に進むことになった。

 

出された金額は12,000円。

 

よかった、本当にぼったくりバーじゃなかった。

でも、よくよく考えると僕たちは2人で3杯しか注文していない訳で、料金的には十分高いのだけれど。

 

それでも思ったよりも安かったので安心した。

 

しかし、店を出るまでは警戒を解いてはいけない。

パパっとお金を払い、店を出ることにした。

 

帰り支度をしていると、突然エミが僕の耳元にやってきてこういった。

 

この間、一緒に来た人たちは2人で6万円くらい支払っていたから、内心ドキドキしてたんよ!安くて良かった!(ニコ!)

 

ニコッじゃねぇよ!

ぼったくりバーやんけ!

 

 

おわり。